8月 232013
 

そうだチョンキンへ行こう。

日本でいえば東京・中野ブロードウェー、上野アメ横。あるいは大阪・ミナミの新世界あたり。混沌として、ワケのわからない人やモノに溢れている、そんな雑踏をそぞろ歩くのが好きな人も多いと思います。残念ながら我が日本では町は清潔、整理の方向へ向かっていて、猥雑な空間は減り続けています。で、そんな憧憬を求めて、東南アジアあたりにフラーッと旅に出てしまうわけです。
香港の街並み 雑居ビル
▲麗しの香港。迫り来る生活感に萌えであります。

バンコク、ホーチミン、プノンペン、台北…アジアの大都市には必ず大きな市場があって、歩いているだけで脳汁が溢れ出そうな、活気溢れる商業空間があります。そんなカオス空間ラインナップの中でひと際、異彩を放つカオス空間。それが香港の重慶大厦(チョンキン・マンション)です。

重慶マンションは一言で言ってしまえば「雑居ビル」。しかし、ただの雑居ビルではなく、イカれた巨大雑居ビルです。一階、二階あたりは両替商、インドカレー屋、怪しい雑貨商などが軒を連ねています。上層階はバックパッカー、世界の商人向けのゲストハウスになっており、世界中からやってきた人々が寝泊まりをしています。沢木耕太郎が名著「深夜特急」の旅のスタートで、アジアにどっぷりとハマってしまったのも、この重慶マンションの安宿に出会ったから。現在、なんと世界120カ国以上の国籍の人々が滞在、居住しているというから、世界的に見ても珍しい物件だということがわかります。
重慶マンション全景
▲重慶マンションの威容。ゴゴゴゴっと内部で良からぬことが起こっていそう

とはいえ、それほど危険ではない

かつて、重慶マンションといえば「汚い」「危険」といったイメージが付いて回り、お金のないバックパッカーたちや怪しい売人の巣窟といったイメージがありました。90年代の名作映画、ウォン・カーウァイ監督作「恋する惑星」(原題:重慶森林 Chungking Express)の舞台となったことなどから、香港に行ったことがない人にも「ヤバい場所」として知られていました。

しかし、ちょうど「恋する惑星」がヒットしていた前後、香港政府が重慶マンションの「大改造計画」を実施します。電力供給網の整備、犯罪の取り締まりなどを徹底強化、各ゲストハウスに火災報知器設置が義務化されたほか、350台の監視カメラの映像をモニターで常時チェックする、などなど。これによりかつて頻繁にあったボヤ騒ぎ、治安の心配が大幅に減りました。

1996年に放送されたテレビドラマ版「深夜特急」では、重慶マンションの薄暗い安宿(「快楽招待所=Happy Guest House」が撮影に使われた)が登場しましたが、現在の重慶マンションのゲストハウスは拍子抜けするほど広く、キレイな部屋ばかりになっているようです。その分、かつてより値段がかなりお高くなっていますが。

古きものが次々に消える香港

重慶マンション内部散策
▲チョンキン内部空間。多国籍都市すぎて興奮します。

魔窟「九龍城」が取り壊され、その後も近現代に建てられた集合住宅など、かつての香港の象徴とも言える雑然とした町並みが次々に姿を消している香港。少し郊外へ行けば、超高層マンションが林立し、整然とした町並みが見られます。

そんな中で、重慶マンションの内部は相変わらず猥雑で、どこか遠くの異国へ来てしまった感、かつての沢木耕太郎が感じたであろう旅の高揚感を味わえる貴重な場所です。

巨大雑居ビルなので深入りすると火災や犯罪が心配、という人も多いと思われます。とりあえずフラーッとビルに入り、両替所でエクスチェンジでも軽くしてみて(レートは悪くない)、1,2階のインド人たちを見るだけでも、十分に楽しめます。ついでにカレーなんか食べたり。場所は繁華街・尖沙咀(チムサーチョイ)の通り沿いにあってアクセス至便。

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8月 102013
 

川越蔵造りの町並み

相互直通運転によって東急東横線方面からの交通が便利になった「小江戸」川越。

神奈川県の人気観光スポット「鎌倉」に比べるとやや地味な印象もありますが、「蔵造りの町並み」は関東では珍しく大規模に古い町並みが残り、そのどっしりとした家並みは一見の価値ありです。近年、電線の地中化によって空がぐっと広くなり、遠くまで続く蔵の連なる景観は、江戸の町にタイムスリップしたような気分になれます(目の前の道を車がひっきりなしに走るのが少々残念ですが笑)。

「小江戸」川越の蔵造りの町は明治時代にできた!←えっそうなの

さて、先ほど「江戸の町にタイムスリップ」と書きましたが、厳密にいうと現在の川越の蔵造りの町並みは、江戸時代の建築がそのまま残っているわけではありません。これ、「小江戸」という言葉のイメージでついつい勘違いしてしまいます。そのあたりをちょっと解説してみましょう。

江戸の時代から栄えた川越の町でしたが、1893(明治26)年に中心街を焼き尽くす大火事が起こります。多くの家屋が焼失した中で、数軒の蔵造りの家が焼け残りました。そのうちの一軒、大沢家住宅(現存)を見た川越商人たちは、日本の伝統的建築である土蔵造りの耐火性能を見直すことになります。

もともと江戸からの舟運によって財を蓄えていた川越商人たち。同じ惨事を繰り返さないために、土蔵造りの防火建築によって川越の町を再建し始めます。そして商人らしく先進的というか柔軟な考えだったのが、伝統的な建築様式だけに固執せず、レンガや大谷石など新しい建材も使ったこと。商人たちは伝統を取り入れつつ、未来を見据えて家造りをしたのです。
川越蔵造りの町 建築
▲どっしりとした「川越スタイル」の建築。

というわけで、今も残る「大沢家住宅」が、蔵造りの町並み誕生のキッカケだったわけですね。現在の土蔵群は「大沢家」フォロワー(笑)。「なんだ、あの家並みは江戸からのモノじゃないんだ」とガッカリしましたか?

川越商人が残した「川越スタイル」の土蔵建築群

僕はこの話を聞いてむしろ、川越の町並みがグッと身近に、そして格好よく思えるようになりました。当時、東京中心部では西洋風のレンガ造りや石積みの建築が流行していましたが、川越の商人たちは敢えて日本の伝統的な建築スタイルを選択したわけです。しかも、新しい建材を受け入れるなど良いものは良いと認めて取り入れる、柔軟な姿勢を持って。もちろん、大沢家住宅を模範にしていますので、江戸当時の町並みにも近い景観が形成されていると思います。

関東大震災も東京大空襲もくぐり抜けた、この蔵造りの町並み。駅から少し遠かったこともあり開発が遅れ、結果として現在まで多くの土蔵建築が残りました。今や川越市民の誇りであり、「重要伝統的建造物保存地区」に指定されるなど、国の宝でもあります。

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8月 032013
 

最近奄美諸島関係の仕事を手伝っているので奄美の存在を気にしていたら、写真家・管洋志の素晴らしい写真集「奄美~シマに生きて」に出会いました。観光ガイドブックを見るよりも、これ一冊をじっくり見た方が、よほど奄美の姿が理解出来るように思います。

■美しいけれどどこか哀しい…奄美の風景

一般的に奄美群島は琉球・沖縄と混同されがちで(行政区域は鹿児島県)、「南国リゾート」「エメラルドの海と白い砂」的なイメージを持たれている方も多いと思います。確かに海は美しいしマングローブも島唄もあるし、そこまで間違ったイメージではないのですが。

奄美群島の歴史はなかなかに複雑です。琉球、薩摩藩、そしてアメリカと、時代のうねりの中で支配者がコロコロ変わり、島人は苦しい生活を余儀なくされてきました。そうした悲哀の歴史の名残なのか、どこか陰影のある独特の文化や風景が形づくられ、今に伝えられています。

■管洋志の「人間写真」

写真家・管洋志は「人間写真」をテーマに掲げアジア各国、特に東南アジアを中心に、滾る(たぎる)ような人間の生活の風景を写し続けてきました。管の写真は一言でいえば「生々しい」。

例えば奄美の無邪気な小中学生の写真。溌剌としていて、人間の生の感覚に溢れているなあと思って見ていると、ズボンが汚れ、穴があいていたりします。あるいは中学生男子の生えかけのヒゲ、つながりかけの眉毛が、毛穴ごと目に飛び込んできたりします。

同様に石垣の朽ちたディテール、植物の産毛、筋肉が落ちた老人のスネ、親戚縁者の集まりの席、夜の帳(とばり)に細々と灯される家の明かり、特攻隊の記憶など、「亜熱帯」「南国」という言葉から連想される陽のイメージとは違う、ざらざらとした生活の姿が切り取られています。

写真集巻末の文章も、奄美を知る手がかりとして面白いものでした。島では車ですれ違う時に頭を下げて挨拶する(たとえ知り合いでなくとも)など、実際に島に行かなければ体感できないようなエピソードも。

旅に求めるものは人それぞれ違うとは思いますが、例えば現在の生活を見直し一度リセットしてニュートラルな気持ちになりたい時などは、奄美群島はいいかも知れませんね。まだまだ記号消費的な観光が浸透していない島だと思うので(それでいて面積、人口とも大規模な群島)、ゆっくりと巡る甲斐があると思います。

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